ビタミンE(トコフェロールとトコトリエノール)について
目次
◆ ビタミンの定義
◆ 各ビタミンの働き
◆ ビタミンEは脂溶性の抗酸化物質
◆ 老化や疾病の原因となるフリーラジカル
◆ ビタミンEはフリーラジカルを効率良く捕捉する
◆ ビタミンEは8種類の化合物の総称
◆ 抗不妊因子として発見されたビタミンE
◆ 天然品と合成品の見分け方
◆ 天然品と合成品の体内活性の違い
◆ スーパービタミンE:トコトリエノール
◆ ビタミンの定義
ビタミンとは、生物に必須の栄養素のうち、炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物の総称です。
ほとんどのビタミンはヒト体内で合成することができないため、食物から摂取することが必要になります。
ビタミンは以下のように、脂溶性(油に溶ける)のものと水溶性(水に溶ける)のものに大別されます。
<脂溶性>
ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK
<水溶性>
ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、ビタミンC
◆ 各ビタミンの働き
各ビタミンの働きは以下のようになります。
脂溶性/
水溶性 |
ビタミン | 機能 |
脂溶性 | ビタミンA | 夜間の視力の維持と、皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 |
ビタミンD | 腸管でのカルシウムの吸収を促進し、骨の形成を助ける。 | |
ビタミンE | 抗酸化作用により、体内の脂質を酸化から守り、細胞の健康維持を助ける。 | |
ビタミンK | 正常な血液凝固能を維持する。 | |
水溶性 | ビタミンB1 | 炭水化物からのエネルギー産生と、皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 |
ビタミンB2 | 皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 | |
ナイアシン | 皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 | |
パントテン酸 | 皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 | |
ビタミンB6 | タンパク質からのエネルギー産生と、皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 | |
ビタミンB12 | 赤血球の形成を助ける。 | |
葉酸 | 赤血球の形成を助ける。胎児の正常な発育に寄与する。 | |
ビオチン | 皮膚や粘膜の健康維持を助ける。 | |
ビタミンC | 皮膚や粘膜の健康維持を助ける。抗酸化作用を持つ。 |
◆ ビタミンEは脂溶性の抗酸化物質
ファイトケミカルプロダクツ株式会社では、米油を製造する際に副生する未利用バイオマスから
ビタミンEなどの高機能成分を取り出しています。
ビタミンEの最も重要で特徴的な作用は「抗酸化」です。
その効果を利用して、食品や化粧品などに酸化防止剤として幅広く利用されています。
ビタミンEは、若さを保つために必須のビタミンです。
そもそも、老化とはどのような現象を指すのでしょうか。
なぜ起こるのでしょうか。
ビタミンEの役割と重要性を真に理解するためには、まずフリーラジカル(※)が引き起こす生体組織へのダメージについて知る必要があります。
(※)通常は1つの原子・分子軌道に2個の電子が入り安定化しているが、そのペアから電子1個が失われ、不安定で反応性が高くなった状態の原子または分子、イオン。
◆ 老化や疾病の原因となるフリーラジカル
ヒトが呼吸によって酸素を取り込むと、代謝の過程で必ずスーパーオキシドアニオン(・O2–)やヒドロキシルラジカル(・OH)のような、不対電子を持つフリーラジカルが生成します。
これらは「活性酸素」と呼ばれるものの一種です。
フリーラジカルは体内に入った細菌やウイルスを攻撃したり、細胞間の情報伝達に使われたりと、私たちの生命活動になくてはならないものです。
一方、フリーラジカルは反応性が高く、脂質やタンパク質、DNAなどの重要な生体成分をも見境なく攻撃し、傷付けてしまいます。
特にヒドロキシルラジカル(・OH)は最も反応性が高い、すなわち生体にとって最も有害なフリーラジカルです。
傷付いた細胞は通常は修復されますが、傷付いた細胞の数が多いと修復が追い付かなかったり、DNAのミスコピーが起こったりします。
これが「老化」や「細胞のがん化」に繋がります。
怪我や病気、ストレス、喫煙、多量のアルコール摂取も、体内に過剰なフリーラジカルを発生させる原因となります。
◆ ビタミンEはフリーラジカルを効率良く捕捉する
ビタミンEは抗酸化剤としてこれらのフリーラジカルを捕捉し、体内の脂質の酸化を防ぐとともに、それが引き起こす様々な病気やDNAの変異・損傷から身体を守る役割を果たしています。
脂質(LH)がフリーラジカルの攻撃を受けて酸化されると、脂質ラジカル(・L)が生じます。
これが酸素と反応し、脂質ペルオキシラジカル(・LOO)や過酸化脂質(LOOH)を発生させます。
これらの脂質ラジカルや脂質ペルオキシラジカルは、さらに別の脂質を酸化して新たなフリーラジカルを生み出すという連鎖反応を起こします。
フリーラジカルによって酸化された脂質は、動脈硬化や心筋梗塞など、様々な疾病の原因になります。
ビタミンEは、過剰なフリーラジカルを捕捉するとともに脂質が連鎖的に酸化される反応プロセスを断ち切ることで、このような病気の発症を予防します。
ビタミンEは脂溶性のラジカル捕捉剤として、主に細胞膜において作用しています。
細胞膜は脂質でできていて、常にフリーラジカルによる攻撃にさらされています。
ビタミンEは、細胞膜の中で脂質の酸化反応を起こしているフリーラジカルを捕捉することで細胞膜を保護し、細胞内の核にあるDNAを守っています。
これにより、細胞組織のがん化や変異を抑制することができます。
一方、ビタミンCや尿酸などの水溶性の抗酸化剤は、細胞膜の外側の水層に存在するラジカルは捕捉しますが、細胞膜の内側の脂溶性ラジカルは捕捉することができません。
しかし、ビタミンCは、フリーラジカルを捕捉して抗酸化活性を失ったビタミンEを再生することが解っており、ビタミンEの強力なサポート役を担っています。
◆ ビタミンEは8種類の化合物の総称
ビタミンEは、4種類(α, β, γ, δ)のトコフェロールと、4種類のトコトリエノールという8種類の化合物の総称です。
トコフェロールもトコトリエノールも、クロマン環と呼ばれる部位と、長い炭素側鎖を持っています。
トコフェロールの側鎖は全て単結合ですが、トコトリエノールの側鎖には3つの二重結合があります。
クロマン環のメチル基(R1, R2: CH3-)の位置と数の違いにより、α, β, γ, δ体が区別されます。
8種類あるビタミンE化合物のうち、最もよく知られているのはα-トコフェロールです。
これは自然界において最も多く存在していて、生体内での活性も高い化合物です。
以下に述べるように、α-トコフェロールは抗不妊因子として、8種類の中で一番最初に発見されたビタミンE化合物です。
◆ 抗不妊因子として発見されたビタミンE
元々、ビタミンEはラットの不妊を改善する因子として発見されました。
ビタミンEが欠乏した餌で飼育されたラットは生殖機能に障害を受けていましたが、そのラットにレタスや小麦胚芽を与えると、その異常が解消されたのです。
その後の研究で、このラットの生殖に必要な成分が分離・同定され、「トコフェロール(tocopherol)」と命名されました。
これはギリシャ語のtókos(出産)+ phérein(運ぶ)に由来し、ヒドロキシ基(-OH)を有することを示す“ol”を組み合わせた造語です。
その後、他のトコフェロールの異性体も次々に分離され、最初に分離されたものがα-トコフェロール、後から発見されたものがβ、γ-トコフェロールと呼ばれるようになりました。
◆ 天然品と合成品の見分け方
8種類のビタミンE化合物の中で、α-トコフェロールのみ合成品が製品化されて出回っています。
α-トコフェロールは病気の予防や治療、栄養補給、酸化防止を目的として医薬品、食品、飼料などに広く含まれていますが、その9割以上に合成品のα-トコフェロールが用いられています。
自然界に存在し、食物中に含まれる天然のα-トコフェロールは単一の化合物ですが、合成されたα-トコフェロールは化学式が同じで立体構造の異なる8種類の化合物(立体異性体)の混合物です。
8種類の中で、1つだけが天然のα-トコフェロールと同じ立体構造を持っていて、残りの7種類は自然界には存在しません。
α-トコフェロールが天然品か合成品かを見分けるには、以下の表示に着目してください。
天然品:D-α-トコフェロール
合成品:DL-α-トコフェロール
天然品は頭文字にD(またはd)しか付いていませんが、合成品にはDL(またはdl)の2文字が付いています。
また、大豆由来とか植物油由来と書かれていれば天然品、DやDLの表記がなく単にα-トコフェロールまたはビタミンEとしか書かれていない場合は、ほぼ合成品と見て間違いないでしょう。
◆ 天然品と合成品の体内活性の違い
天然品と合成品のα-トコフェロールは、体内に摂取した時の活性も違います。
8種類の立体異性体の混合物である合成品のα-トコフェロールの生物学的な有効性は、天然のα-トコフェロールの半分程度しかありません。
また、天然のα-トコフェロールは、合成品のα-トコフェロールに比べて3倍効率良く、母親の胎盤を通って胎児に届くことが解っています。
これらのことから、私たちの体には、元々自然界に存在するD-α-トコフェロール(RRR体)を認識し、それを選択的に利用するメカニズムが備わっていると考えられています。
◆ スーパービタミンE:トコトリエノール
ビタミンEは、トコフェロールとトコトリエノールの2つに大別されます。
トコトリエノールは、最初にα-トコフェロールが発見されてから25年以上も後に、初めて分離されました。
これまで、ビタミンEと言えば自然界に最も豊富に存在するα-トコフェロールのみを指す場合がほとんどであり、ビタミンEの研究も、α-トコフェロールを中心に進められてきました。
一方、トコトリエノールはパーム油や米ぬか油、大麦油などの限られた植物油に極微量しか含まれない稀少な成分です。
トコフェロールと異なり安価な合成品も流通しておらず、高価であるため、トコトリエノールに関する研究は、トコフェロールに比べて大幅に遅れています。
しかし1990年以降、徐々にトコトリエノールの優れた効能が注目され始め、コレステロール低下作用や抗がん作用など、トコフェロールにはない独自の機能が明らかになってきました。
トコトリエノールには炭素側鎖に3つの二重結合があり、これによってトコトリエノールはトコフェロールにはない、特有の性質を持ちます。
トコトリエノールはトコフェロールに比べて40–60倍の抗酸化作用を示すため、「スーパービタミンE」と呼ばれています。
トコトリエノールは優れた抗酸化物質であり、食品として経口摂取したり化粧品として皮膚に塗布したりすることで、健康・美容に関する以下のような効果を得られることが報告されています。
食 品 | 肌状態の改善(水分、滑らかさ、弾力の向上) 動脈硬化の予防 神経保護作用 毛髪量の増加 免疫活性化効果 血清総コレステロールおよびLDLコレステロールの低下 肝臓機能の保護と改善 脳卒中の予防と改善 発がん予防とがん細胞の増殖抑制 |
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化粧品 | 紫外線による肌の赤み、色素沈着の抑制(美白、日焼け防止) 紫外線や活性酸素からの表皮細胞の保護(抗酸化、抗老化) 皮膚線維芽細胞およびヒアルロン酸の産生促進(抗老化、ハリ・弾力維持) |
このように、トコトリエノールの持つ健康機能は徐々に明らかになってきましたが、多くの研究はトコトリエノールとトコフェロールの混合品を用いて行われています。
トコトリエノール単独での試験や、トコトリエノールの各異性体ごとの働き、機能などの解明はまだ十分にはなされていません。
今後、更なる研究が待たれます。